新しい機器に見る、優れたモバイルユーザーエクスペリエンス

現世代のモバイルインターネット製品、およびサービスは(DEMOmobile 2000カンファレンスで見る限り)ひどいユーザビリティだ。だが、Blackberry、Modo、それにプロトタイプのMicrosoftテレホンといった新しいデバイスが健闘している。

9月始めに開催されたDEMOmobile 2000カンファレンスではっきりしたことは、モバイルインターネットはまだ実用段階でないということだ。ユーザビリティの訓練を受けた目から見ると、そこでデモされていたもののほとんどは完全な失敗作だ。もちろんプレゼンターなら、苦労もいとわず必要となるステップを踏んでいくことができるだろう。だが、運悪く、平均的ユーザには、現実にこなさなくてはならないタスクがあるのだ。

例えば、建設プロジェクトでの資材発注にWAP端末を利用するというデモがあった。現場監督が、建設現場でモバイル機器を利用するというのは理にかなっている。とはいえ、どうせならもっと大きくて手間のかからない機器を、車や小屋で利用した方がいいはずだ。だが、このデモでは引き続き「購買管理者」が出てきて、もうひとつの携帯電話を使ってその注文を承認していた。やれやれ。購買管理者なら、オフィスで使い心地のいいコンピュータの前に座っていた方がいいんじゃないだろうか。そうすれば、必要な記録を簡単に引き出せるんだから。

中でも最低なのは、このデモがうまくいったのは、「現場監督」も「購買管理者」も、この発注に何の問題も争点も感じていなかったからに過ぎないということだ。彼らは、単に「これを購入」というボタンを押しただけである。現実の世界には例外がつきものだ。タスク分析をしてみればすぐにわかることだが、文字通り平均的な法則にしたがって進行する事例など存在しない。現実世界の複雑さが加われば、このデモのようにうまく事が運ぶはずがないのだ。

WAPとPalm Pilotの両方のバージョンで、いくつかのサービスが紹介された。毎度おなじみのことだが、電話ベースの機器としては、トランプくらいの大きさのものが、非常に優れたユーザビリティを示すということがはっきりした。画面は大きい方が表示できる情報量が増え、有用性が増す。だが、もっと重要なことは、電話機で採用されている「ホイールをスクロールする」というような間接的なインターフェイスよりも、ユーザインターフェイス部品をダイレクトに操作できるもの、すなわちペンを使って画面上をタッチしたり、動かしたりするものの方が、はるかに自然な感覚で使えるということだ。

新しい、よりよい機器が登場しようとしている。カンファレンス参加者の間で非公式に出た話によると、モバイル接続に関してベスト、かつもっとも愛される製品としてBlackberryが浮上してきているらしい。Blackberryを持っている人は、非常にたくさんいた(もちろん、Demoのような高価なカンファレンスに参加できるくらいの人なら、オフィス外でEメールを読むために月60ドル出費することなど、ほとんど苦にしないだろう。だが平均的ユーザはどうだろう?確信は持てない)

Pocket PC: Outlookとのモバイル接続

DEMOmobile’2000で一番興味深かったのは、Microsoftのプレゼンテーションだった。まず、プレゼンターは、私の年来の主張に賛成してくれた。そう、Windows CEは使いものにならない。Microsoftは、次世代の製品が出るまでは、自社製品の弱点について何も言わないということで悪名高い。だが、少なくともこのプレゼンターは認めた。大画面用にデザインされたユーザインターフェイスを、そのまま小さい画面に押し込んだのは間違いだったと。今度出たPocket PCのデザインは、CEよりずっとよさそうだ。

Pocket PCのデザイン上のゴールは、(その名が表しているごとく)PCのミニチュア版を作ることではなく、Outlookのモバイル版コンパニオンを作ることだった。これは、すばらしい戦略である。当面は、自宅やオフィスに設置したフルスクリーンの機器をベースステーションとして利用する人がほとんどだろうと、私は確信しているからだ。Microsoftの仕事は、このフルスクリーンの母艦上で、メインのソフトウェアとしてOutlookを使い続けてもらうことだ。その他の会社は、これをしのぐコミュニケーション基地を作らなくてはならないのだが、私の見るところ、現状でOutlookに取って代われそうな見込みのあるものはない。

電話のキーパッドをなくせ

Microsoftは、このカンファレンスで最良の電話機もデモしている。高解像度カラーディスプレイを搭載した携帯電話がそれで、標準のHTMLコンテンツを表示できる(電話機でPocket Internet Explorerを動かしている)。Microsoftがハードウェア開発をやるというのは興味深いが、モバイルインターネット機器を電話の延長線上で考える戦略には未来がないと思う。データ形式のひとつとして音声を扱えるようにしたモバイルコミュニケーション機器を開発する方がいい。

Microsoft電話のプロトタイプには、私が今まで見た中で、もっとも高品質な画面が搭載されていたが、物理的な表面積の1/3以上は、無駄な数字キーに取られていた。キーは取り去って、その分少しでもたくさんピクセルに回そうじゃないか。

電話をかけるとき、相手先の番号は以下のようなもので調べることが多い。

  • アドレス帳
  • Eメール(あるいはこれに類するもの、例えばSMS [=Short Message Service:GSM方式の携帯電話で受発信する短いメール] やポケベルのメッセージ)
  • イエローページ、電話帳、企業ウェブサイトのオンライン検索

10ケタの番号を入力する(こんなにひどいUIもないだろうが)よりも、単に画面を使って、かけたい相手先の人や企業の名前をタップするだけの方がいい。

Modo: 最小限の片手UI

DEMOmobile’2000で一番興味を引かれた新しい機器Modoだ。本当はこの記事のトップで扱うべきだったかもしれない。コンテンツに関するユーザビリティ法則に従うなら、もっとも重要な情報から書き始めなくてはならないからだ。にも関わらずこのセクションを後回しにしたのは、これと相反するもうひとつのユーザビリティ上の目標があったからだ。それはつまり、ここにスクロールするまでの間に、写真のダウンロードが終わっているだろうという配慮だ。

Modo
Modoでメインメニューを表示したところ

Modoの工業デザインは、1996年にPhilipsが発表した未来のページャーのコンセプトモデルを思い起こさせる。このプラスチック製のタマゴには、心を捉える何かがある。消費者向けエレクトロニクス機器で支配的な四角い形状よりもおもしろく、親しみやすい。

Modoは、片手で操作できる。

  • ユーザの人差し指がバック(戻る)ボタン(あらゆるナビゲーションインターフェイスにおいて、常に最重要な機能)の上に収まる
  • ユーザの親指はホイールの上にくる。これには2つの機能がある:
    1. ホイールをスクロールすると、画面の選択対象が上下する(画面の上端や下端に達すると、テキストはスクロールする)
    2. ホイールを押すと、現在選択しているものが起動する(通常は、これがハイパーテキストリンクになっている)
  • Modoには、オン/オフボタン、ディスプレイ用バックライト点灯ボタンもついているが、通常の使用では、これらに触れることはない。

ここでの説明は、右利きでの利用を前提にしている。この会社のウェブサイトを見た限りでは、左利き用のバージョンは用意されていないようだ。

モバイル機器にとって、片手で操作できることのメリットは大きい。もう一方の手は、ブリーフケースを持ったり、バスのつり革につかまったり、その他のことでふさがっていることが多く、オフィス環境と違って、両手で操作するのはあまり便利とはいえないからだ。

Modoのユーザインターフェイスは、非常に控えめなものだ。本当の意味での情報家電と言えるだろう。この機器でできることはたったひとつ。それは、あなたが今いる街のエンターテイメント情報と、「お出かけ」スポットの一覧を提供することだ。設定はまったく必要ない。初めての街への旅行にModoを持っていけば、その地方のネットワークとやりとりして自動的にその街の情報をダウンロードしてくれる。

支払いや登録のためのインターフェイスも存在しない。この機器の価格は前払いで一律99ドル。その後の情報サービスは無料である。サービス継続の資金は、広告収入でまかなおうというのだ。おもしろいビジネスモデルだが、私はうまくいかないと思う。

  • 普通のウェブサイトでは広告はうまくいかない。大型のカラー画面を備え、ひとつリンクを追うだけで広告主が運営する情報満載のサイトへ行ける状況でさえそうなのだ。モバイルでの利用では、なおさら時間の制約が大きく、環境もかなり貧弱だ。広告の入る余地は少なく、ユーザの立場で言えば、割り込みに対する忍耐力はさらに低下している。
  • Modoのようなアドバイスサービスは、信用が第一だ。広告主なら評価を高くしてもらったり、掲載場所を好きに選んだりできるようだと勘付いたら、ユーザは信頼しなくなる。広告主であっても他のみんなと対等に扱われ、場合によっては悪い評価を下されることがあるとしても、ユーザは、このサービスにはバイアスがあると思い込んでしまうのだ。ニューメディアの世界では、昔からの「政教分離」の原理がまだよく理解されていないからだ。

Modoプロトタイプの初期のコンテンツを評価した結果、テキストの書き方次第で、非常に微妙な細部の違いまでが、ユーザビリティに影響を及ぼすことがわかった。例えば、間違ったところに強制改行が入っていることが多く、テキストの可読性を下げている。Modoのコンテンツは、始めからこの機器のために書かれたものばかりである。さらに画面が小さいことも考慮するなら、編集者が、ワードラップや改行に特に注意することが重要だ。

私は以前、見出しやページタイトルといったウェブデザイン要素のことを指すためにマイクロコンテンツという言葉を発案した。Modoの登場によって、より細かい単位でコンテンツのユーザビリティに配慮する必要が出てきた。これはナノコンテンツとでも言うべきものだ。モバイル機器では、文字単位でコピーの長さを調節しなくてはならない。例えば、WAP端末では、見出しの中でも最重要の部分は、最初の18文字以内に収めなくてはならない。また、コンテンツの可読性を最大限に高めるよう、改行の位置にも気をつけなくてはならない。

参考資料

  • Los Angeles Timesに掲載されたDEMOmobileのレポート(2000年9月11日)
  • WAP, Europe’s Wireless Dud?, Washington Post(2000年9月15日)、スウェーデン最大の銀行のインターネット部門を統括する人物の発言:「今年の初めから、顧客向けにWAP端末を使ったオンラインバンキングを提供しています。 […] メニューはどんどんどんどん深くなり、その度に待って待っての繰り返し。電話機の小さな画面に表示されるテキストも、読むのに骨が折れます。ついに、みんなあきらめてしまいました」

2000年9月17日