2002年 イントラネット・ベスト10

本年のイントラネットデザイン受賞サイトは、国外拠点の統合的サポート、長期の開発期間(平均2年)、ワンストップのスタート画面と単一のサインアップ、それにコンテンツ提供者用インタフェースのユーザビリティテストに重点が置かれていた。

昨年のイントラネット・デザイン年鑑で、私たちは、10年間の無関心をようやく脱して、2002年がイントラネットの年になるだろうと予想した。今年のデザイン選考結果からみて、やはりこの読みは正しかった。

ノミネート数が激増したこともさることながら、さらに重要なのは、2002年のノミネート作が示すとおり、自社のイントラネット管理に力を入れる大企業が増えてきたということだ。今年のデザイン賞にノミネートされたイントラネットは118件。うち、相当数のデザインはクオリティが高く、受賞作を10件にまで絞り込むのは非常に苦労した。2002年、ベストの中のベスト・イントラネットは(以下、アルファベット順)…

  • ABB (デザイン制作: BEKK Consulting)
  • BellSouth
  • Credit Suisse Financial Services (デザイン制作: Crealogix)
  • Deloitte Touche Tohmatsu, Australia (デザイン制作: Eclipse Group)
  • Lonely Planet Publications
  • Mira Networks AB
  • Northwestern Mutual
  • Wal-Mart Stores, Inc.
  • Washington Mutual (デザイン制作: Towers Perrin)
  • The World Bank Group (デザイン制作: Satyam Computer Services)

受賞者の背景

Washington Mutual は、イントラネットでの役員報酬管理アプリケーションを評価されての受賞。他の受賞作 9 件は、全社的イントラネットが対象となった。受賞者のほとんどは巨大企業であり、例えば Wal-Mart や ABB では、前者で90万、後者で16万ものユーザを抱えている。実際、今年の大きなトレンドのひとつとして、大企業が、イントラネット・デザインの調整とユーザビリティの改善に向けて大きな一歩を踏み出したことが挙げられる。

とはいえ、もっと小さな企業でも、優れたイントラネットはデザインできる。今年の受賞作の中には、例えば、ユーザ数 450 の Lonely Planet Publications や、従業員わずか 12 名の Mira Networks が含まれている。もちろん、小さな企業では使える資源も少ないが、イントラネットの役割はもっと絞り込まれているし、ユーザビリティ確保のために、関係者をデザイン・プロセスに参加させるのも簡単だ。

金融サービス業界からは不つりあいなくらいの受賞者が出ていて、2002 年のトップ 10 のうち、実に 4 つを占めている。その理由のひとつとして、金融業には、全社的サービスを集中的に調整する開発プロジェクトをこなしてきた長年の伝統があったことがあげられるだろう。一貫性あるデザインを備えた機能的イントラネットを構築する上で、この伝統の資するところは大きかっただろう。金融業には規模の大きな会社が多く、使える予算も潤沢だから、ソフトウェア・プロジェクトで生産性とユーザビリティを重視する伝統もあった。この伝統が、イントラネット・プロジェクトにもそのまま適用されたのだろう。ユーザビリティの伝統が確立されていない他の企業に比べて、彼らは一歩抜きん出ていた。電話会社にも、ソフトウェア開発において生産性とユーザビリティを重視する伝統があり、この業界からも受賞作が出ている。

他の受賞作は、コンサルティングから出版、小売業、製造業と、実に幅広い業界から出ている。

管理体制の面で唯一明らかな傾向は、組織内でのイントラネット・チームの位置付けが一定していないということだった。イントラネット・チームの所属先としてよくあるのは、情報技術部門と人事部門のふたつだ。だが、優れたイントラネット・チームが、秘書課や広報部に属しているケースもあった。一般向けのインターネット・ウェブサイトと、ファイアウォールの内側にある社内用イントラネットの両方を統括する e-ソリューション部門に組み込まれている場合もあった。

国外のイントラネット

優れたイントラネットは、世界中のどこにでもある。2002年の受賞作のうち、合衆国に本拠を置く企業は5社、ヨーロッパに本拠を置く企業が3社(ABB はスイス、ただしデザイン制作はノルウェイ; Credit Suisse はスイス; Mira Networks はスウェーデン)、オーストラリアに本拠のある企業が2社(Deloitte Touche Tohmatsu および Lonely Planet Publications)であった。World Bank Group の本拠地は合衆国だが、デザイン制作はインド(Satyam Computer Services)で行われている。

2002年トップ・イントラネットの国際的な広がりは、受賞企業の本拠所在地よりずっと広い。海外でのオペレーションを念頭に入れている企業も多い。World Bank では、低速なダイアルアップ接続しかない国にも従業員がいるし、もっと規模の小さな Lonely Planet でも、オーストラリア以外の 3 カ国に支社を持っている。こういった場合、イントラネットは、国境を越えたコミュニケーションや、多国籍企業の一体感を向上させるのに役立っているばかりでなく、より実用的な機能も果たしている。例えば、国をまたいだ文書の共有といった役割だ。複数国でのイントラネット統一化というのが、間違いなく明らかな今年のテーマだ。以前は、営業している国ごとにバラバラなイントラネットを作る企業が多かった。

海外支社では、自国向けコンテンツを扱うために、自国の言語で書かれたページを持っているのが普通だ。残念なことに、イントラネットの中には、国外ユーザ向けにナビゲーション機能を更新する機能のないコンテンツ管理システムを利用しているものがあり、この場合、メインメニューは英語のままになってしまう。複数言語での検索も、決着のついていない問題だ。この先、イントラネットを支える技術が発達して、国外ユーザのサポートがもっと強化できるよう望んでいる。

開発期間の長期化とビッグバンの不在

受賞プロジェクトのほとんどは、イントラネットの再デザインに2年くらいかけている。これは企業にとっては重要な教訓で、早期に見返りを期待しすぎるのは禁物だ。大企業にとって、イントラネットを再デザインし、全部署にわたって一貫性あるデザインを産み出すというのは大プロジェクトである。イントラネットのユーザビリティと、従業員の生産性を向上させようと思うなら、ポータル用ソフトウェアにちょっと手を加えるくらいでは済まない。

プロセス全体に約 2 年かかる可能性があるとは言うものの、受賞プロジェクトは、すべてが完璧に整うのを待たずして、新しいイントラネットを一般にリリースしている。あらゆる問題を一発で理想的に解決しようとして、開発に気の遠くなるような時間をかけた「ビッグパン」的開発プロジェクトでは、リリースをえんえんと待つうちに燃え尽きてしまう企業もある。対するに、今回の受賞企業は、そのすべてが段階的アプローチを採用していた。新しいテンプレート、ポータル、検索エンジン、パーソナライズ機能といったイントラネットの個別機能を、段階的にリリースしているのだ。また、全員がいっせいにすべてのページを変更するのではなく、中心となるデザイン・チームが、部署単位でひとつずつ新しいデザインに変更していくのが通例だ。イントラネットの規模を考えれば、ビッグバン型のアプローチはまず不可能だろう。BellSouth には 300 万のページと 1000 のサブサイトが、Credit Suisse Financial Services には 100 万のページが、Lonely Planet のような規模の小さな企業でさえ 5 万ものページがあるのだから。

組織的リストラや企業合併が原因で、非常に余裕のない締め切りの下で進められたプロジェクトもある。大企業ともなると、イントラネット・デザイナーの都合を考えてビジネス戦略を練るところは少なかろう。よって、イントラネット・チームには、突然の大幅な変更にも対応できる柔軟性が欠かせない。イントラネット・デザイナーは、常日頃からユーザビリティ・データを収集して、突然の要求があった場合にもすぐに対応できるように備えておくべきだ。かなり急ぎのプロジェクトともなれば、完全な人間中心デザイン・プロセスを採用できない可能性もある。しかし、それまでに集めたユーザビリティ知識やガイドラインは活用できるだろう。相当余裕のない開発スケジュールのプロジェクトでは、一連のユーザビリティ・クリーンアップや段階的改善が最初のリリース後に行われる場合が多く、これが結果的に受賞デザインにつながっている。

長期的には、イントラネット・デザインへの大規模な変更にも即応できるより優れたツールが必要だ。さしあたって有益なアプローチは、企業の組織表ではなく、イントラネットの情報構造を従業員のタスクや職務目標を元に組み立てることだ。大規模な改編でも、タスク・ベースのイントラネットの大部分はそのまま残るだろうが、組織主体で構築したイントラネットは再デザインが必要になるだろう。事実、今年の受賞作のほとんどは、情報構造とナビゲーション設計が、主としてタスクベースのものになっている。

キラー・アプリケーションとワンストップ・ショッピング

イントラネットの価値の大部分は、これを全職員が毎日チェックするコミュニケーション・ツールに仕立て上げるところから生まれる。これは難題かもしれない。ある企業でそうだったように、古いイントラネットに配慮が足らず、使い物にならないとしてみんなに嫌われているような場合はなおさらだ。よくある解決法(もちろん、クオリティ向上を目指して再デザインする以外に)として、目立つところに非常に便利なキラーアプリを配置して、みんなが自発的に — そして頻繁に — イントラネット・ホームページに来るようにするというやり方がある。

大多数の企業では、社員検索ツールがキラーアプリになっている。毎日のランチメニューをキラーアプリにしている企業もいくつかあった。何を選ぶにせよ、キラーアプリのユーザビリティには特に注意を払うこと。利用する職員が多いので、少しでも弱みがあれば、生産性の無駄という形であなたの会社に大きな損害を与える。さらに重要なのは、キラーアプリのユーザビリティが高ければ、これが基準となって、他の部署が追加するその他のイントラネット・ページやアプリケーションの水準が向上することだ。他の人と同様にキラーアプリを頻繁に利用しているうちに、デザイナーにも、優れたユーザビリティのガイドラインが具体的に体でわかってくる。明らかにクオリティの低い成果物を公表するのは、ためらうようになるだろう。

多くの企業では、もっとも重要な機能と個々の職員のニーズにあわせてホームページをカスタマイズし、ワンストップ・ショッピングができるようにしている。コントロールパネル・デザインを採用したイントラネットもいくつか見られた。必要とする情報の種類にあわせて、絞り込まれたビューを切り替えられるようになっている。例えば、BellSouth では、企業情報、職務情報、および個人情報それぞれのためのビューを統一化し、シンプルでパワフルなポータルを作っている。

受賞イントラネットのほとんどは、ワンストップ・ショッピング型アプローチを、セキュリティ機能にまで広げている。優れたイントラネットでは、長年にわたるユーザからの要望に応えて、ついに単一サインオンを実現したサイトが数多い。

CMS ユーザビリティ

コンテンツ管理システム(CMS)が話題になって久しいが、昨年の受賞サイトの大部分でも、これが共通のテーマとなっていた。今年の受賞サイトも、やはり CMS に大きく依存していたものの、少し工夫も見られた。CMS のデザインについてユーザビリティ調査を実施し、初期のアプローチとオーサリング・テンプレートのほとんどを却下した企業がいくつかあったのだ。

エンドユーザ向けデザインにユーザビリティ・テストが不可欠なのは当然として、今年見た限りでは、制作者向けのユーザビリティも同様に重要だということだ。イントラネットの鮮度と関連性を高めるには、数多くの従業員がコンテンツを提供できるようにしておかなくてはならない。CMS があまりに難しければ、イントラネットのかなりの部分が、あっという間に鮮度を失ってしまうだろう。

モバイル・イントラネット

イントラネットの鮮度を保つという点では、Mira Networks は特別賞に値する。スカンジナビア諸国にはありがちなことだが、Mira の従業員は携帯電話のヘビーユーザで、SMS テキスト・メッセージをしょっちゅう利用している。Mira のイントラネットには携帯のテキスト・メッセージを取り込む機能があり、従業員が、例えば外出先から携帯電話でイントラネットを更新できるようになっている。分単位の新鮮なコンテンツが話題になるわけだ。

モバイル機器が普及し、従来の携帯電話よりも強力なリモート情報サービスが可能になれば、将来的に、モバイルからのイントラネット・アクセスはさらに重視されるようになるだろう。オフィスを離れて働く従業員は数多いが、現在のイントラネットでは、ラップトップからダイアルインしたユーザしかサポートしていない場合がほとんどだ。イントラネット・ユーザに真のモバイル能力を提供するために、どんなデザインが登場するのだろうか? 今から楽しみである。

デザインは専門家に

統一性のないデザインと、その結果損なわれたユーザビリティに苦しめられているイントラネットは数多い。ユーザは、クリックするたびに、異なったルールを強制されるのだ。受賞したイントラネットは、いずれも一貫性という点で大きな一歩を踏み出していた。集中的デザインによる高度な品質を武器にして、部署単位で制作された怪しげなデザインに対抗し、社内政治に打ち勝つことにも成功している場合が通例だ。

Wal-Mart は、一貫性あるイントラネット管理という点で、特に実り多い戦略をうち立てている。それは、コンテンツはユーザのもの、デザインは専任チームのものという考え方だ。

くわしくは

受賞作の104 点の画面ショットを含む 158 ページからなるイントラネット・デザイン年報がダウンロードできる。

私たちは、合衆国、ヨーロッパ、アジアの幅広い企業で一連のユーザビリティ・テストを実施しており、間もなく完了の見込みだ。この結果は、Boston、New York、London、それに Silicon Valley で開催されるUsability Week 2002 のイントラネット・ユーザビリティ講座 1 日コースにて発表の予定である。

これだけの数のイントラネットでのユーザテスト・データ、およびビデオが見られるのは、公開セミナーとしては、今回が初めてのはずだ。

2002年9月3日