PDFショックの防止にはゲートウェイページを

予告なしに PDF ファイルを突き付けて、ユーザに苦痛を与えないようにしよう。専用のゲートウェイページを作って長い文書コンテンツの要約を掲載し、PDF の泥沼へユーザをおだやかに誘導するべきだ。

前回の Alertbox では、PDF がオンラインでの情報提供に不向きである理由を説明した。今回は、この問題にどう対処すればいいかを見ていこう。

解決策: ゲートウェイページ

以前のコラムで、いくつかのデザイン方針を嫌うユーザの声を紹介した。

4 つの部門、4 種類のデータ、だが結果はひとつ。ユーザがないがしろにされている。弱点があるにもかかわらず、ウェブサイトで PDF が使われているのは、たとえ使いやすさが損なわれようとも、掲載しやすいからである。基本的に、コンテンツ提供者は、ウェブに適したフォーマットに情報を変換する手間を惜しんで、経費の節約を取る。

理想的には、各種の情報をオンラインでの利用に適した形に再フォーマットすべきである。たとえば、年次報告用にウェブページを作成する場合、年次報告の作成と同時進行でウェブのデザインを行えば、実際にはそれほど費用はかからない。大部の年次報告ができてしまってから、「さあ、ウェブ化しよう」となると、コストがかかってくるのである。

印刷用の文書を配布したり、標準以下のユーザ体験を承知の上で既存のコンテンツを転用するつもりなら、少なくともユーザに不快な驚きを与えることのないようにしよう。各 PDF 文書ごとにゲートウェイページを作成し、必ずこのゲートウェイを経由してユーザを誘導するようにするのだ。

  • その情報へのリンクは、必ずゲートウェイページに対して行う。PDF ファイルへの直リンクは避けるべきだ。
  • ゲートウェイページには、その PDF ファイルの短い要約を入れておく。そうすれば、PDF ランドに踏み込むわずらわしさをあえて行う意志があるかどうか、ユーザにも判断がつく。
  • ゲートウェイページには、そこで提供しているものが PDF ファイルであるという警告を入れておく。そのファイルのページ数と、ダウンロードサイズも表示しておくべきだ。
  • 大部の PDF ファイルはセクションごとに分割して、それぞれに独立したリンクを張っておく。各リンクのそばには、簡潔な内容要約を添える。また、全ページをまとめた単一ファイルへのリンクも用意し、印刷目的の場合はこのリンクを利用するように、と書いておく。
  • PDF ファイルをブラウザ内で開くわずらわしさを回避しつつダウンロードする手順も掲載しておくといいだろう。残念ながら、現状のテクノロジーでは、これは一般ユーザには難しい操作だ。ファイルを表示しないでダウンロードする特殊なリンクが作れるようになるといいのだが。

これらのガイドラインに沿って PDF 文書を公開しているウェブサイトにユーザを誘導する場合、必ずリンクはゲートウェイページに張っておくこと。PDF への直リンクは避けよう。

検索エンジンのスパイダーを防止する

ウェブサイトやイントラネットで PDF ファイルを公開する場合、検索エンジンが検索結果リストの中にこれらの文書を表示しないようにしておくことは非常に重要だ。このことは、内部用検索エンジンにも、一般用検索エンジンにも当てはまる。検索エンジンが PDF ファイルをインデックスすると、たとえ検索した単語が文書内の奥深くにある場合でも、無作法にもユーザは 1 ページ目に放り込まれる。これはとてつもない混乱を招き、不親切でもある。

内部用検索エンジンでは、スパイダーの対象となるファイル形式を指定できることが多い。PDF ファイルを除外しておけば、ユーザも快適になるだろう。PDF 以外でも、要約ページやその他のナビゲーション補助を必要とするような複雑なデータ形式には、ユーザが直接アクセスできないようにしておくのもいいだろう。

一般向け検索エンジンでは、これほどのコントロールはきかない。補足記事では、望まないファイルを検索エンジンの対象外とする方法をいくつか紹介しておいた。残念ながら、現状のテクノロジーでは、今使えるテクニックは、どれもその場しのぎのものでしかない。

一般用検索エンジンが、PDF ファイル本体ではなくゲートウェイページにユーザを誘導するように仕向ければ、かなりユーザビリティを強化することができる。ひとつ困るのは、これによって、そのサイトへの検索エンジンの注目度がわずかに下がることだ。検索対象語がサイト内の他のどの場所にもなく、PDF 全文の中にしか出現しない場合があるからだ。

トラフィックを重視するなら、ユーザビリティを犠牲にして検索エンジンに PDF をインデックスさせよう。だが、いきなり PDF ファイルに放り込まれたユーザがロイヤリティあふれる顧客になる見込みはまずない。サイト用ナビゲーションの恩恵を受けられず、サイト内の他のパートを見てくれる可能性が薄いからだ。また、こういったユーザの多くは、探しているものを見つけることもできないだろう(答えが 82 ページ目にあったりするから)。よって、一度は来てくれるものの、彼らがあなたのサイトを高く評価してくれる見込みはない。

PDF へのトラフィックには価値がない。ナビゲート不可能な、完全な文書を検索エンジンに大量にインデックスさせるという戦略は絶望的であり、私のお勧めするところではない。

インタラクティブフォーム用 PDF

PDF 売り込みの最新手段、それは、インタラクティブフォームを通じたデータ入力用のツールという位置付けだ。従来の固定的文書ほどの問題はないが、それでもこれはまずい考えだ。

ワークフロー補助という面では、フォームというメタファーは間違いである。データ入力をインターネットベースのアプリケーション(あるいは、場合によってはイントラネットベースのアプリケーション)と考えて、本物のユーザインターフェイスをデザインする方がはるかに適切である。永年にわたるアプリケーション向けインタラクションデザインの中で進化してきた GUI 要素、条件分岐付きのワークフロー構造、ユーザ補助技術のすべてを駆使するのだ。

30 年に及ぶ人間工学の教義のうちでもっとも重要なもののひとつは、過去のやり方をそのままコンピュータに置き換えるべきではないということだ。既存のプロセスは理想的とはいえないのが通例で、過去のテクノロジーの制約の中でデザインされている。新しいテクノロジーによってこうした制約は軽減され、問題解決のための新たな方法が生まれている。一方で、また別の制約が生まれてもいるので、新しいソリューションを稼動させるには、そこに真剣に取り組まなくてはならない。

オフィスオートメーションというパラダイムは失敗に終わった。標準以下の「エンタープライズソリューション」のために生産性は低下し、企業は何 10 億ドルものお金をドブに捨てた。使い方が難しく、ワークフロー改善の役には立たなかったのである。こんな失敗を繰り返してはならない。そもそも出来の悪いことが多い複雑なフォームを画面用に変換するなど、もってのほかだ。

適性を考慮したツールの使い分け

まるで不向きな問題を無理に解決しようとするのではなく、PDF がそもそも得意な目的のためにこれを利用しよう。それは印刷である。ひとつの問題のためなら世界最高のソリューションであるという事実は、なんら恥じるようなことではない。ことに、その問題が印刷という一般的かつ重要な問題なら、なおさらだ。

それひとつで、すべてのコンピュータの問題を解決できる答えなどない。ツールが複数あることは問題ではないし、そのほうが全体的なユーザ体験は、はるかに良好なものになるだろう。

補足記事

2003年7月28日