イントラネットユーザーの生産性は低いまま

イントラネットのデザインは改善されてきてはいるが、企業の要求の、増加する複雑さについていけていない。その結果、ユーザビリティの測定結果はわずかながら悪化した。

イントラネットについての最新のユーザー調査が示すのは、企業のコンピューター利用についての残念な実態だ。そこで出たユーザビリティの測定結果は、10年前、初めてのイントラネット調査で確認された結果よりも、わずかではあるが悪化していたのである。

以下がイントラネットの基本的タスクを達成しようとするときの従業員の平均成功率である:

  • 10年前: 75%
  • 現在: 74%

これに対して、現在、一般のウェブサイトでの平均成功率は80%である。過去10年でウェブサイトのユーザビリティは劇的に向上した。したがって、話の全体はこうなる:

  • 10年前: イントラネットはウェブサイトより優れていた
  • 現在: イントラネットはウェブサイトより劣っている

以下のいくつかの理由により、理論的には、イントラネットのユーザビリティはウェブサイトより優れているはずである:

  • 環境を完全に管理できる
  • 誰がユーザーであるか正確にわかっている。基本的には隣のオフィスにいる人たちだからである。また、彼らの特徴もすべてわかっている。フィールド調査は隣の家のドアをノックするのと同じくらい容易だし、それによって主なユーザーグループ全部の正確なペルソナを構築するのに必要なデータも入手できる。(我々の調査レポートでは我々が現場で見た様々なイントラネットユーザーのタイプを網羅する7つのペルソナが説明されている。しかし、各企業に必要なのは2、3種類のペルソナだろう)。
  • ユーザビリティの改善はどんなものであっても企業の収支に直接、影響する。イントラネットを利用中のユーザーの時間に対価を支払っているからである。したがって、ROIの例はたいへん明快である。(eコマースのユーザビリティのROI例はさらに明快だ。それによって売上の伸びがもたらされるからである。しかしながら、100万ドルの節約は100万ドルの儲けとなるので、コスト削減からくるROIも同じくらい悪くないはずである)。

なぜイントラネットのユーザビリティは劣っているのか

現在のイントラネットのデザインが10年前のイントラネットより劣っているというわけではない。最初の調査でのスクリーンショットと新しいスクリーンショットを比べると勝負にならない。新しいほうのイントラネットのスクリーンショットは見た目に優れているだけでなく、(こちらのほうがより重要だが)ユーザブルなデザインのための望ましいガイドラインをより忠実に守っていて、機能的にも優れているからである。

デザインは良くなったのにユーザビリティは悪化した。どうしてそんなことになるのだろうか。主な理由はイントラネットが解決しようとする問題が劇的に複雑になってきていることにある。最新のイントラネットは初期のイントラネットよりもはるかに機能が多い。機能が増えるにつれて、ユーザーがイントラネットで動き回れるように手助けするための要件はずっと厳しくなるのである。

ユーザビリティとはユーザーエクスペリエンスの測定結果、つまり、平均的な従業員がタスクを実行するのにかかる時間、の問題である。例えば、グループや部門のトップについての情報を見つけるのにかかった時間は、最初の調査では2分19秒だったが、3回目の調査では2分46秒だった。言い換えると、同じことをするのに今のほうが10年前よりも27秒長くかかっている。

1つのタスクの実行が30秒遅くなったというのはユーザビリティ上の大惨事というわけではない。しかし、個々の測定結果を企業レベルに拡大すると問題は深刻になる。各タスクにイントラネットで年間で行われている作業数をかけ算し、この結果にさらにイントラネットを利用している従業員数をかけてみよう。こうした生産性計算をすると、最適でないイントラネットデザインによって、多数のフルタイム従業員の年間分に相当する生産性が失われているということが明らかになることは多い。

現在、イントラネットを利用することで従業員はより多くのことができるようになった。しかし、そのようにして追加された能力には、タスク達成に要する時間が増え、成功する可能性は減るという代償もある。もちろん純粋な機能だけではなく、使いやすさも重視したデザインになっていればその限りではないが。

イントラネットのユーザビリティがイントラネットの機能についていけてない理由の2番目は、パッケージ化されたイントラネットソリューションによる、即、使えるデザインへの依存が高まっていることである。Intranet Design Annualの受賞者を何年分も調べていくと、イントラネットのデザインを良いものにするには、企業は自分たちの個別のニーズに合わせるため、パッケージソリューションを修正する必要があることがはっきりしている。

デフォルトのユーザーインタフェースは何の役にも立たない。自分たちですべてプログラムするかわりにパッケージソフトを利用するのは悪いことではないが、ユーザーエクスペリエンスの責任はあなた方にある。また、デフォルトの設定を超えるユーザーインタフェースをデザインする必要もある。そうしない限り、汎用のイントラネットデザインを利用することで、従業員が迷子になり、仕事をしようとして、時間を浪費してしまう可能性は高いだろう。(ユーザビリティ上の観点からすると、多目的な汎用デザインとは、実際には目的のない無駄なデザインのことである。提供するサポートがユーザーには不十分だからである)。

ユーザー調査: 企業の従業員は実際にどのようにイントラネットを利用しているのか

実際、今回の最新調査は、多種多様な企業イントラネットについて、広範囲にわたってユーザビリティを調査するシリーズの第3回にあたる。我々は3回の調査で合計42組織のイントラネットを調査した:

  • アメリカで30組織
  • カナダで1組織
  • ヨーロッパで10組織(イギリスで5組織、フィンランドで1組織、オランダとスイスで各2組織)
  • アジアで2組織(香港とアラブ首長国連邦)

(場所が43カ所なのは、国際的なユーザビリティを評価するため、ある多国籍企業のイントラネットを2大陸で調査したからである)。また、エスノグラフィとも呼ばれる観察的フィールド調査も19サイトで実施した。

テストユーザーの71%はイントラネットを毎日利用していたが、残りのユーザーの利用頻度はそれより少なかった。毎日利用するユーザーはイントラネットのエキスパートユーザーだろうと思うかもしれない。しかし、今回の場合はそれが当てはまらないことがわかった。実際、ユーザーが主に扱う機能は1個か2個だけで、例えば、電話番号を調べるために従業員名簿を利用したり、ホームページ上のニュースを読んだりするだけだったからである。

この調査全体から裏付けられる重要なポイントは2点である:

  • 様々な部門で働いている現実の従業員がイントラネットの機能を実際にどのように利用し、そうした労働環境でどのデザイン要素がユーザーの生産性を向上させるのか、あるいは妨げるのかが明らかになった。
  • こうした洞察を企業や産業、国、言語にわたって一般化することができるようになった。どの企業にも予測のつかない出来事というのはあるものだが、共通点も多数ある。しかしながら、1件のイントラネットしか扱わないデザイナーには他企業のイントラネットのデータは手に入らないことが多い。

イントラネットのユーザビリティに対する要求の高まり

単純すぎる指標なのは確かだが、イントラネットユーザビリティへの要求を見積もる方法の1つが、ユーザー調査から導かれるガイドライン数を数えることである:

  • 10年前に発行されたイントラネットユーザビリティレポートの初版でのデザインガイドラインは111
  • 発行されたばかりの第3版でのデザインガイドラインは782

だからといって、イントラネットのユーザビリティを達成するのが今や7倍難しくなったというわけではない。しかし、今日の企業環境に必要な無数の機能のおかげで、イントラネットデザイナーが考えなければならないユーザビリティ上の課題がはるかに増えたのは確かである。

その他の発見

過去の調査では、イントラネットチームの40%が作業をする人が足りないと言っていたが、今回はイントラネットチームの32%「のみ」が人員不足を感じていた。状況は改善されてきている。しかし、企業全体の生産性に影響がある割には、多くのイントラネットがいまだ資金不足のままである。

最新調査での作業時間を基準にすると、従業員1万人の企業が、劣っているイントラネットユーザビリティ(今回テストでの悪いほうから25%以内をそう定義する)を、イントラネットユーザビリティの平均に持っていくと、年間400万ドルの節約が可能である。対照的に、平均的ユーザビリティのイントラネットが上位25%のイントラネットのユーザビリティレベルにまで改善されても、生み出される利益は年間で100万ドル程度に過ぎない。

基本的に、酷いイントラネットというのは本当に酷い。そのうえ、それは日々、従業員の生産性を損なうというかたちで現れてくるのである。

フルレポート

イントラネットユーザビリティガイドラインつきのレポートのシリーズ(1505ページ): ガイドライン782個、および、テストしたイントラネットのスクリーンショット938枚。

Original photo by: andreas_fischler