ペルソナによって、プロダクトチームメンバーはユーザーを記憶しやすくなる

ユーザー調査を基にしたペルソナは、重要なユーザーセグメントの特徴を目立たせることで、製品のライフサイクル全般でユーザー中心デザインをサポートしてくれる。

ユーザーエクスペリエンスの分野で重視される考え方とは、ユーザーが中心にくる製品をデザインしなければならないというものであり、製品に合わせてユーザーがその使い方を覚えなければならないというものではない。つまり、そこで重視されているのはユーザー中心型のデザイン(UCD)であって、テクノロジー中心型のデザインではない。そのため、我々はユーザー、具体的には、彼らの行動、態度、ニーズ、目的を理解する必要がある。最終的な製品がWebサイトであれ、ソフトウェアアプリケーションであれ、モバイルアプリであれ、インタラクティブなキオスクであれ、どういう人がそれを利用することになるのかがわかっていて、そうした知識がデザインの特徴になっている場合にはじめて、ユーザー中心型のデザインというのは達成されるからである。ユーザー調査手法という武器をまるごと用いることで、ユーザー中心型デザインは達成が可能だ。しかし、一般的な漠然としている「ユーザー」のニーズではなく、実在する人物のニーズに基づいた決断を促進するツールとしてはペルソナというものもある。

ペルソナの定義

ペルソナとは、その製品の典型的あるいはターゲットとするユーザーの、架空ではあるがリアリティーのある説明である。ペルソナは実際に生きている人間ではなく、モデルである。しかし、彼らは実在している人であるかのように描写されるべきである。

説明は徹底的なものでなければならず、そのペルソナの年齢や性別、行動パターン、職業といった背景情報だけでなく、ニーズや関心事、目的についての詳細情報も入っていなければならない。このように1人の個人だけに(あるいは、複数のペルソナを使う場合には、少人数の個人に)焦点を置くことで、デザインのターゲットにしている特定のユーザーへの共感が育まれ、万人向きのデザインをしようという努力をしないですむようになる。ペルソナでは想像上の人物の生活のあらゆる側面を文書化する必要はない。むしろ、そうではなく、デザイン対象物に影響を与えそうな特徴に集中すべきといえる。1つの事業につき、3~5体のペルソナを設定すれば、その組織の様々な側面をカバーできる可能性は高くなるが、そのうちの1体か2体のペルソナによって、製品やサービス、機能群、Webサイトのコンテンツエリアごとの主なターゲットを特定するとよい。

ペルソナというのは機能する。なぜなら、デザイナーや開発者も彼ら以外のすべての人同様、抽象的な概念や一般論より具体的事例にひきつけられやすい傾向にあるからである。必要なのは、プロダクトチームのメンバー全員がユーザーを重視し、自らもう一歩踏み込んで、実際のユーザーの役に立つものを開発しようとすることである。しかし、もしユーザーの説明が統計学の用語でなされていて、プロフィールも一般的なものなら、そうした情報は明確なペルソナほどには開発チームメンバーの頭に残らないだろう。

ペルソナの例。今回の目的は、企業サイトの「会社概要」や「採用情報」のコンテンツデザインのサポートである。
ペルソナの例。今回の目的は、企業サイトの「会社概要」や「採用情報」のコンテンツデザインのサポートである。

ペルソナはユーザーグループではない

ユーザーグループやマーケットセグメントを規定するというのは、ペルソナの作成とは別のものである。たとえば、大きなユーザーカテゴリーについて議論している場合には、そのグループ全体の属性の要約として範囲を利用する必要がある。こうした統計データは個人が表に出てこないので、デザイン中に覚えておくのが難しい。対照的に、ペルソナというのはこうしたデータ範囲から導き出した1人のユーザーで、そのグループの具体的な詳細情報や重要な特徴を強調するものである。したがって、それから作り出される物語はずっとわかりやすく、記憶しやすいので、結果的に、デザインフェーズ中およびそれ以降も継続して利用しやすいのである。

ペルソナ作成のタイミング

「できるだけ早く」というのがペルソナ作成のタイミングに関する最大のガイドラインである。もちろん、まがりなりにも正確で、かつ、製品の実際のユーザーを代表したペルソナにするには、ペルソナはユーザー調査に基づいたものである必要がある。ペルソナは作られたキャラクターではあるが、実際のユーザーに関する情報を基に作り上げるべきである。(現実世界での根拠なしに思いついた想像上の友人的ペルソナというのは、獲得したいと思っているユーザーの描写になっている可能性があり、ユーザーの実際の様子を反映するものではないからである。実在してない誰かのためにデザインをしてしまうと、買ってくれる人が誰もいなくなってしまうだろう)。

ペルソナの作成プロセスは、製品や機能の調査フェーズの一部として、実際のデザインプロセスの開始前にあるのが理想である。まず第一に、典型的なユーザーの特徴を定義するために、フィールド調査やアンケート、長期間にわたる調査、インタビュー等のユーザー調査手法を実施するべきだ。(フォーカスグループやアンケートの結果といった自己申告によるデータは、誤った結論が出てしまうことがあるので、他の調査手法によって検証する必要があることは覚えておこう)。ユーザー調査が完了しさえすれば、そのデータからペルソナとシナリオを導き出すことが可能である。

ペルソナ作成のためのガイドライン

ペルソナの作成はチームで行うのがよい。難しいからではない。そのプロセスに貢献できたチームメンバーから、ペルソナの利用についての支持が集まるようになるからである。ペルソナをデザインツールとして利用することへの主な反論の1つに、ペルソナが実在の人物ではないというのがある。だが、チームメンバーをプロセスに巻き込み、ユーザー調査の生データに触れてもらえば、架空のユーザー1人1人の特徴や行動が、実際のユーザーから蓄積された事実に基づくデータをベースにしていることがわかってもらえるだろう。

ペルソナの作成プロセスのスタートとしては、ユーザー調査活動で観察したユーザーの特徴を特定することから開始するとよい。こうした属性をクラスターに分類して、明快なキャラクターを作ることから始めよう。いくつかのクラスターが似すぎているようなら、統合するか、そのうちのビジネスにとって重要度が低そうなものをふるい落としてよい。そして、各クラスターの明確な役割が見えてきたところで、詳細情報を追加し、そのキャラクターをさらにリアルで、信憑性のある、記憶しやすいものにしよう。

ペルソナに共通して含まれる情報は以下である:

  • 名前、年齢、性別、写真。
  • 彼らが「日常生活」でしていることを説明するキャッチフレーズ。そこではウィットを効かせすぎないようにしよう。そうすることでペルソナが損なわれるおそれがあるからだ。面白くなりすぎてしまって、便利なツールではなくなってしまうからである。
  • あなた方の製品やサービスに関する経験のレベル。
  • あなた方の製品に彼らがどのようにインタラクトするかについてのコンテキスト。たとえば、自分で選択したのか、業務上の必要性からか。どのくらいの頻度で利用するだろうか。デスクトップコンピューターを利用してアクセスすることが多いか、それともスマホ等の他のデバイスからが多いか。
  • 当該タスク実行時の目的や関心事。たとえば、スピードなのか、正確さなのか、綿密さなのか、あるいは彼らの利用法からくるそれ以外のニーズか。
  • そのペルソナの態度を総括する引用。

あなた方のゴールは、もっともらしい生き生きとしたキャラクターを作り出すことであるはずだ。そのためにはデザインに何の影響もない無関係な詳細情報は追加しないようにしよう。名前や写真も無関係のように思えるかもしれないが、それらは記憶しやすさを支援する役割を果たす。つまり、ペルソナにとってのもっとも重要な業務を行ってくれるのだ。その結果、彼らが作っている製品のターゲットユーザーについて、チームメンバー全員がしっかりと記憶できるようになるのである。一方、不必要な詳細情報が大量にあると、関係のある情報を圧倒してしまい、そうした情報を覚えにくくしてしまうことになりかねない。

したがって、1つ1つの情報は目的をもって入れるべきだ。つまり、最終デザインへの影響もなければ、意思決定を容易にするわけでもなさそうな情報は削除してよい。たとえば、あるペルソナが色々なワインが好きだというように設定しても、イントラネットのデザインの助けにはならないだろう。しかし、ソムリエや本格的なワイン愛好家向けのフォーラムやマーケットプレイスのデザインをする場合、この設定は非常に役立つ可能性がある。また、ディテール指向型という行動特性は、そうした個人が購入を納得するには、製品の具体的なデータポイントや側面を確認する必要があることを意味している場合もあるし、スピード重視型なら効率的で合理的なデザインが必要だと言える場合もあるだろう。

ペルソナ重視のデザイン

ペルソナを利用することの主なメリットは、ある特定のタイプのユーザーを説明するのに皆で共有できるより正確なボキャブラリーを作り出すことで、共通の目的に向かって集中したデザインができるようになることである。ペルソナの名前は、ミーティングにおいてデザインについての判断を下すときに考慮する必要のある、属性や要求、行動パターン一式の省略された表現としての機能を果たす。その代わりに、もし、「そのユーザー」は何が欲しいのだろうか、という発言をしてしまうと、ミーティングの出席者はおのおの、そうしたユーザーがどんな人で、ニーズが何であるかをさまざまに解釈しようとするだろう。さらには、この「ユーザー」の定義のベースが議論されていることに関する各人のメンタルモデルになってしまう可能性もある。特定のペルソナにまつわる説明書を作り上げることで、自分を反映した思考から聞き手を切り離し、かつ、話し手の意見に対する依存をやめさせることができる。その結果、議論を個人的な見解についてのものから、その特定のペルソナのニーズについてのものに切り替えられるようになる。開発チームが一連の同じユーザー像を頭の中に容易に描けるようになれば、そうしたユーザーに向けてより良質なデザインをすることが可能である。

デザイン戦略について判断を下す際には、ペルソナの最大のメリットである、こうした機能性によって、どの機能を実装し、優先するかを伝えるべきである。製品、あるいは大型製品内の機能群のメインのターゲットは、通常、1体か2体のペルソナによって規定されるはずである。ターゲットのペルソナの役に立たない、無関係な機能のデザインや構築で時間を浪費しないようにしよう。ある特定の1人、あるいは2人のユーザーを喜ばせることだけに集中するという、こうしたプラクティスによって、デザイナーは、想像できる限りのあらゆる極端なケースを処理するインタフェースを作成しなくてすむようになる。すべての人を喜ばせるものをデザインすることなどできない! しかし、規定したターゲットユーザー群にとっての楽しくユーザブルなエクスペリエンスをデザインすることは可能だ。

ペルソナの継続的なメリット

戦略を練り、デザインについての判断を下すというのがペルソナの主な利用方法ではある。しかし、最初のデザインフェーズ以降にもペルソナを利用する方法はある。実際のところ、デザインフェーズ開始時にペルソナが作成されていなかったとしても、それ以降の活動のためにペルソナを作成することには、それはそれで意味はある。

社外の代理店やコンサルタントと仕事をする場合に明確に定義されたペルソナがあれば、製品やサービスのターゲットオーディエンスを容易に説明することが可能である。たとえば、ペルソナについての重要な属性をリストアップする、あるいは文書全体を代理店に参考として渡せばよい。デザインができあがったら、ペルソナはエキスパートレビューのガイドとしても利用可能である。重要なタスク、あるいはWebサイトやアプリケーションのエリアのそれぞれで、各ペルソナがインタフェース内の課題を特定するプロセスにどのように取り組みそうかを検討すればよい。

ユーザビリティ調査の参加者のリクルートもペルソナを利用すれば容易になる。ペルソナをリクルート対象者のテンプレートと考えればよいのである。つまり、何個かのペルソナに共通する特徴なのか、あるペルソナ特有の特徴か、というのは、調査参加者の全員とは言わなくても、その一部に対するスクリーニング条件として有用だろう。

もし、そのWebサイトやアプリケーションがすでに存在していて稼働中なら、ペルソナを利用して、アクセス解析データをセグメントし、実際のユーザーの行動や利用を評価することが可能である。こうしたセグメントは一度に分析する純粋なデータ量の削減に便利なだけではなく、ペルソナの継続的な検証と改良にも役に立つ。ペルソナは随時更新していく文書であり、貴重すぎて変更もできないようものではないからである。

プロジェクトのライフサイクル内でのペルソナの作成と利用についてのさらに詳しい情報については、我々の一日トレーニングコース「UX Basic Training」の受講を検討してみてほしい。

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調査レポート(英文)