駅におけるモード管理と自動改札機

  • 黒須教授
  • 2002年6月17日

新幹線の駅には乗客を迷わせるところがある。それはモード管理に関する問題である。ローカルな駅を別にすると、新幹線の駅はたいてい在来線と一緒になっている。その場合、改札口には二通りのパターンがある。つまり、新幹線と在来線が別個になっている場合と一緒になっている場合とがある。新幹線と在来線が別の改札をもっている場合、乗客は乗車の時はまず在来線の改札を抜け、それから新幹線の改札を通ることになる。下車の時は逆に、最初に新幹線の改札を通り、それから在来線の改札を通るわけである。新幹線と在来線が一緒になっている場合には、乗車でも下車でも一回改札を通過するだけでよい。問題は、特に大きな駅の場合、これら二種類の改札パターンが混在していることから発生する。

新幹線と在来線が別の改札になっている場合には、乗客のモード管理のためのスタックは、たとえば乗車の場合、まず「外部」の状態にあり、在来線の改札を通過することで在来線状態がpushされ「外部-在来線」という状態になる。新幹線の改札を通過すると、さらに新幹線状態がpushされてそれが「外部-在来線-新幹線」という状態になる。下車の場合にも同じような別改札であれば、順次popされて「外部-在来線-新幹線」「外部-在来線」「外部」という順番にスタックの内容が変化する。

一緒の改札の場合には、「外部」という状態から一気に「外部-在来線-新幹線」という状態に変化する。ただし、このときにスタックの内部に「在来線」という状態を積んだことを意識しない乗客も多い。そうした乗客でも下車するときに同じような改札から下車すれば「外部-在来線-新幹線」という状態から一挙に「外部」状態にpopできるので、意識としては、「外部-新幹線」というスタックを処理したのと同じことになる。同一種類の改札で乗車と下車をすれば、どのようなスタックの内容であっても問題はないのだが、違った種類の改札を通るときには、ここが勘違いを発生させる原因となる。

別改札で乗車して一緒の改札から下車するときには、「外部-在来線-新幹線」となっていたスタックの内容が改札を一つだけ通ったということで、実際には「外部」状態にあるにもかかわらず「外部-在来線」状態にあるように勘違いすることがおきる。この場合は、しかしあまり問題ではない。なぜなら、改札で切符が全部回収されてしまうので、乗客は「あれ?」と思うことはあるかもしれないが、じきに事態を理解することができるだろう。むしろ問題なのはその反対に、一緒の改札から入って別改札で降りる時である。この時は、乗客は乗車に際して「外部-在来線-新幹線」というスタックを積まずに「外部-新幹線」というスタックを積んでいることがある。そうすると、新幹線の改札を抜けただけで「外部」状態にあると勘違いし、自動改札から出てきた切符を取り忘れてそのまま行ってしまうことになる。そしてもう一つ改札があるのを見て、あれ今度はまた在来線に入るのかな、などと全然見当違いのことを考えてしまうこともありうるし、在来線に乗り換えて(本来はこの時に気がつくべきなのだが)降車駅で切符がないことにはじめて気づくということも起こりうる。

こうした乗客は結構いるようで、東京駅では、新幹線の改札出口で、自動改札から出てくる切符を取り忘れないようにわざわざ係員が呼びかけをしているし、京都駅には、「乗車券はお持ちですか?まだ在来線の改札内ですので出口、又は降車駅で乗車券が必要です。新幹線の改札を出られた時に、乗車券はお取りいただきましたか?」という張り紙がしてある。

このような問題は、係員や張り紙といった運用によってしか解決できないのだろうか。自動改札機のユーザビリティを改善することで防ぐことはできないのだろうか。上述の分析から特に問題になるのは、一緒の改札から入って別の改札で降りる時に発生するのであることが分かったが、たとえば新幹線の自動改札機を形や色が在来線とは異なったものにするだけでも効果があるのではないだろうか。そうすれば、新幹線の改札だけを通過したのだということが強く意識されるのではないだろうか。もちろんこれは一つの思いつきにすぎないから、実際には色々な検証を行う必要がある。しかし、張り紙で効果があるならそれほど問題ではないだろうが、係員を常駐させるとなると、その人件費のことも考える必要がある。自動改札機のメーカは、一次ユーザである鉄道会社のコスト削減と、二次ユーザである乗客の満足度を向上させるために、こうした面からも自動改札機のユーザビリティを今一度考え直してみる必要があるだろう。