ユニバーサルデザインとペルソナ

ユニバーサルデザイン的なスタンスと、目標ユーザ的なスタンスとでは、ペルソナの立て方に違いがでてくる。今回は、この二つの考え方を比べた上で、僕が使っているペルソナの使い方を紹介したい。

  • 黒須教授
  • 2015年2月12日

今回は、ユニバーサルデザインとペルソナという二つの考え方を比べてみたい。

 ユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザインは、可能な限り多様な特性を持った人々を対象として人工物のデザインを行う。その理念は、人工物の利用に関して差別をなくすことであり、誰でもが任意の目標を達成できるようにすることである。したがって、ユニバーサルデザインが想定するユーザは実に多様であり、年齢、性別、障害の有無や程度、文化や言語など、様々な次元に関する多様性を含んでいる。理想的にはこの世のすべての人々を対象にしたデザインということになり、それは実現不可能とすら思われることもある。ただし、それはあくまでも理想であり、究極の目標ではある。

目標ユーザ

これに対し、目標ユーザ(targeted user)という言い方がある。その製品なりシステムなりサービスを、どのようなユーザを対象として開発するのかということである。この考え方を狭く解釈すると、その製品やシステムやサービスは目標ユーザに使ってもらえればよく、当初想定していなかったユーザが使った場合には、不便が生じてもやむを得ない、ということにもなるだろう。この考え方は、従来の製品開発においても採用されていたものだけど、特に目標ユーザを設定しないで過去の製品とas isで開発を進めてしまうケースがあったことを考えると、少なくとも目標ユーザの想定くらいはやっておくべきだ、ということにはなる。自動車などではセグメンテーションの考え方は伝統的にやられてきたので、そこはまあいいとしても、それ以外の製品でどうすべきかが問題になる。ただ、公共機器の場合には、誰にでも使えることが必要であり、必然的にユニバーサルデザインと同様の考え方に立脚する必要はある。

こうしてみると、ユニバーサルデザインと目標ユーザとか想定ユーザという考え方は相反する考え方のように見え、どちらの考え方をベースにして開発を進めればいいのか迷ってしまうところである。公共機器は別にしても、たとえばAV機器や白物家電や自動車などを、どの範囲の人たちを対象にして開発すればいいのか、ということが悩ましくなってきてしまう。また、多くの人たちが使うであろうオフィス系ソフトやスマホのアプリなどについてもどうすればいいのかが悩ましく感じられるところであろう。

ペルソナ

こうした状況のなかに、ペルソナという手法が入ってきた。ユーザイメージを具体的な人物像として記述し、それを関係者一同がターゲットとして製品コンセプトやインタフェースの設計などを進めてゆくというものだが、このペルソナを適用するにあたっても、ユニバーサルデザイン的なスタンスと、目標ユーザ的なスタンスとでは、ペルソナの立て方、特にその人数や多様性の表現に違いがでてくると思われる。ユニバーサルデザインの考え方を単純にペルソナ設定にあてはめると、実に多くのペルソナを作らなければならなくなるし、それでは「焦点の明確化」や「関係者のイメージ統一」というペルソナの機能が有効に働かなくなってしまう。通常、ペルソナを作成する数は2、3件からせいぜい8、9件であり、数十件のペルソナを作ることは仮にできたとしても有効に利用できるものにはならないと思われる。

そこでどうすべきか、ということになるのだが、ここで立ち返るべきポイントとして、ユニバーサルデザインの考え方は、目標達成を「その人の特性に適合したやり方」でできるようにする、というものだということを思い出そう。要するに、一つのデザインですべての人が利用できるようにするという共用品の考え方は、ユニバーサルデザインのなかの一つの考え方に過ぎないのだ。

ユーザのセグメンテーション

したがって、ペルソナを作成する前に、まずは想定されるユーザのセグメンテーションを行うことが必要である。ペルソナはそれぞれのセグメントを代表するように作成する必要がある。目標もなく数人のペルソナを作成する訳ではない。そして想定されるセグメントのペルソナは典型的ユーザと位置づける。

残るは想定されていない非典型的ユーザである。これについてもやはりその特性によってセグメント化を試みる。たとえば、ラーメン屋の店舗デザインをする際に、典型的ユーザのペルソナというのは単身居住の男子学生の一人客であり、非典型的ユーザのペルソナというのは家族同居の女子学生の一人客や車椅子利用者を考えればいいだろう。各セグメントに属するユーザが、開発しようとしている機器やシステムやサービスを利用する可能性を考慮する。さらに他の手段により、同等な目標達成が可能であるかを考える。そしてやはり開発しようとする機器やシステムやサービスを利用することが適切であると考えられた場合には、それを含めて全体のペルソナを構成するわけである。特に、公共機器関連、そして誰もが利用するであろう人工物の場合には、許容できる範囲の人数でそのペルソナを含めるようにするのである。もちろんその場合でもペルソナの人数はせいぜい12、3人までにしておくことが望ましい。

その上で、機器やシステムやサービスのコンセプトデザインやラフデザインができた段階で、それぞれのペルソナが直面しうる問題点の可能性をシナリオによって検証する。

僕が使っているペルソナの使い方はこうしたものである。ペルソナの使い方には色々なやり方があるように思うけれど、闇雲に、つまり非系統的に個性の違うペルソナを作成するようなアプローチを見ることが結構あるので、一つの参考になるかと思ってここに書いた次第である。