専門サイトの味方は多様性

小さなウェブサイトは、大きなサイトよりもトラフィックが少ない。それでもなお、各自のニッチで優位に立つことは可能だ。ユーザが抱く疑問に応じて、ウェブ上でその回答を提供するサイトの組み合わせも変わる。

1997 年からわかっていたことだが、トラフィックおよび外部からのリンク数からみたサイトの人気度に関して、ウェブは Zipf 分布に従う。単純にいうと、小さなサイトに比べて大きなサイトのトラフィック量は不釣合いなほど大きい。たとえば、第 100 位のサイトのトラフィックは、第 1000 位のサイトの 10 倍にもなるのだ。(一般的に、サイト N のトラフィック量は、サイト MM/N 倍となる)

6年経った今なお、この累乗法則が、ウェブログとして知られるウェブサイトの一ジャンルで成立していることがわかった。驚くにはあたらない。Zipf 分布の規模を小さくすれば、また新たな分布が現れるのだ。

一例として、次のような状況を仮定してみよう。専門的なトピックをもつウェブサイト群があって、これが 2 万サイトにひとつの割合で出現するとしよう。現存するウェブサイトは 4000 万あるので、2000 サイトがこれに該当する計算になる。この 2000 サイトが、全ウェブ 4000 万サイトの中に均等に配分されていると仮定すると、上位 5 サイトのトラフィックは、以下のようになるだろう。

ウェブ全体での順位 年間ページビュー 専門トピック内での順位
#20,000 10,000,000 最大手
#40,000 5,000,000 第 2 位
#60,000 3,333,333 第 3 位
#80,000 2,500,000 第 4 位
#100,000 2,000,000 第 5 位

たまたま、私自身のウェブサイトの年間ページビューが 1000 万である。おそらく、世界でもっとも人気のあるユーザビリティ・ウェブサイトということになるだろう。このトピックを扱うサイトは 2000 件くらいだろうから、この表がそのままユーザビリティ・ウェブサイトの表ということになるかもしれない。その他のトピックにも、簡単に転用できるだろう。

今年、ウェブ全体のページビューが 4 兆に達したことを思えば、たかだか数 100 万ページビューのこの表内のサイトなど、大勢には影響がないように思える。だが、それぞれが支配するニッチの中では、ウェブ界全体では第 10 万位にしかならないサイトも、ニッチ内の第 5 位になるのだ。十分、影響力のある規模だ。

さらにいうと、ニッチ内にも、またニッチが存在する。ターゲットをしぼったサブトピックに注力することで、さらに小さな数 10 万ページビューのサイトでさえ、目立つことができるのである。

専門特化=ウェブ支配の不可能性

集中化を強めるマスメディアや、合衆国における FCC 規制の変化といった議論があるために、ウェブも中央集権化するのではないか、という疑問は、非常に扱いにくい問題になっている。だが、ウェブはマスメディアではない。放送でもない。ウェブはオン・デマンドであり、一瞬一瞬の顧客の特定ニーズにしたがって動いている。

最近掲載された New York Times の論説「More News, Less Diversity」の中で、Matthew Hindman と Kenneth Neil Cukier は、ウェブを多様性ある情報環境とみなす FCC の見方を否定している。大部分のトラフィックが大手サイトに集中しているから、というのがその理由だ。

Hindman と Cukier は、銃 規制(gun control)に関する 13,000 のサイトのうち、上位 10 サイトに全ハイパーリンクの 2/3 が集中していること、さらに、極刑(capital punishment)に関するサイトの上位 10 サイトに、そのトピックのリンクの 63 %が集まっていることを挙げている。それでも、ウェブ全体としてみれば、やはり多様性は保証されている

ここで問題になるのは、あるトピックのサイトが、他よりも大きいかどうかではない。ウェブとそのサブセットの累乗法則からすれば、明らかに大きいのだ。問題は、ユーザの目的に関係なく、常に同じ数サイトが支配しているかどうか、ということである。Hindman と Cukier の例をくわしく調べた補足記事からもわかるとおり、この場合は、明らかにこれには該当しない。

  • 彼らがあげている 2 つのトピックでは、トップのサイトの重複が皆無である。
  • さらに特殊なサブテーマに目を向けたり、少し質問を言い換えたりすることで、ユーザはまた別のサイトにたどり着く。
  • 領域が違えば、経済問題のメインサイトと、犯罪問題のメインサイトでは、ほとんどまったく共通点がない。

7 種類のトピックで検索してみると、検索結果の最初のページには、59 のサイトから 70 件の結果が帰ってきた。同一サイトから複数の結果が表示されたのはわずか 16 %。わずかな情報源がインターネットを独占しているという議論には結びつかない。

すべての検索は Google で行った。現状では最大の検索エンジンである。とはいえ、大きなシェアをもった検索エンジンは他にもたくさんある。

Microsoft の MSN 検索エンジンでは、銃 規制(gun control)でヒットした 10 件のうち、Google と重複したのはわずか 2 件に過ぎなかった。極刑(capital punishment)関連のサイトとして MSN でヒットした 9 つのサイトのうち、Google と重複したものはなかった(Amnesty International は MSN で 2 度出現したが、Google には出なかった)。ある文脈でビッグなサイトが、あらゆる分野でビッグということはめったにないということが、ここでも例証されている。

検索エンジン広告でさらに多様に

MSN には、スポンサー付きで Encarta 百科事典へのリンクが含まれているが、これは勘定に入れなかった。同様に、Google やその他多くの検索エンジンでは、小さなテキストボックス枠をスポンサーに販売している。これは驚くほど効果的な広告形態である。

何か訴えたいことがある集団は、そういったテキスト広告を購入して、興味を持った人を積極的に自分たちのウェブサイトに誘導することができる。これには、1 ユーザあたり 5 セント程度の費用しかかからない。これは、圧倒的に、パンフレットを印刷・配布するコストより安価である。

よって、広告という、ウェブの中でもっとも商業的な要素でさえも、多様性を助長し、物理的な世界では考えられないくらい大きな声を、小さな集団が持てるようにしているのである。

スモール・イズ・ビューティフル(かつ高収益)

どんな疑問であれ、そのトラフィックの大半がわずかなウェブサイトに集まってしまうのは確かである。検索結果の 2 ページ目以降に進むユーザはめったにいないからだ。しかし、疑問は数多くあるし、質問ごとにトップ・サイトの取り合わせは変わってくる。ウェブ全体としてみれば、専門的なサイトが数え切れないほどあって、様々な問題に、それぞれの立場からの見方を提供している。こういったサイトが、それぞれの専門領域において、かなりの露出とトラフィックを稼いでいるのである。

大手サイトに比べて、小さなサイトには大きな利点が 2 つある。そもそも数が多いし、より専門的でターゲットも絞れている。小さなサイトは、熱意あるユーザ・コミュニティの特定のニーズ、関心に直接語りかけることで、ページビューあたりの価値をはるかに高くしている。ブルーベリー栽培に関するサイトは、それを栽培している人にとっての必読サイトになる可能性があり、よって、ブルーベリー栽培器具の販促の場としては絶大な価値をもつ。

ウェブにおいて、多様性は力である。大手サイトは大きいかもしれないが、特定のトピックに関しては、ユーザとの密着度、および訪問あたりの商業的価値の面で、小さなサイトがより高いスコアを収め続けるだろう。

補足記事

2003年6月16日