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ユーザビリティへの高額投資、元は取れるのか?

公開:2007年11月5日付(日本語版)、2007年11月5日付(原文) 著者:ニールセン博士
原文(英語):High-Cost Usability Sometimes Makes Sense
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要約:

正味現在価値(NPV)を計算すれば、どの程度の投資がもっとも利益につながるかを量ることができる。大規模なプロジェクトなら、ユーザビリティに高額を投じても元を取れる。

ユーザビリティへの投資を安く抑える”こと、安くて時間のかからない手法を用いて、すぐにでもユーザ・インターフェイスを改善することをお勧めする場合が多い。しかし、投資を増やして成果を増やすことも、ときには可能だ。

驚くほど費用に開きのある2つの選択肢を前に、どちらをとるべきかと悩むことも多いのではないだろうか? たとえば…

選択肢を比較するときには、次の4つの変数を組み合わせて見る必要がある。

  1. プロジェクトの期待値
  2. 各選択肢にかかる費用
  3. 結果に現れる差
  4. 不確実性を考慮して、将来価値を現在価値に割り引くときの割引率

試しに計算してみよう

サンプルの数値をスプレッドシートに入力して計算してみよう。たとえば、期待値が100万ドルのプロジェクトがあるとする。利益率20%で、年間500万ドルの売り上げを期待できるeコマースサイトや、一人当たり年間100ドル分の生産性向上を見込める従業員1万人を要する企業のイントラネットなどのデザイン変更プロジェクトが考えられる。

注)稼働後、最初の1年間に実現される価値のみを考えることにする。長期に及ぶプロジェクトも多いので少し不公平かもしれない。たとえば、イントラネットのデザイン変更は3年に一度というのが平均的だ。プロジェクトが1年以上に及ぶのならば、2年目以降に実現される価値(将来の不確実性を勘案するために割り引いて算出した分を差し引いたうえで)追加すべきなのは明らかだが、話を単純にするためにここでは最初の1年のみを考えることにしたい。

次に、2つの選択肢それぞれの費用と成果を見積もって、差を見る。仮に、安く抑えた場合の費用を1万ドル、高額を投じる場合を4万ドルとしよう。

高額を投じた場合は、安く抑えた場合よりも20%高い成果をあげられるものと控え目に見積もることにする。ユーザビリティの改善でデザインプロジェクトの価値を倍増できると言われていることを前提にすると、費用を安く抑えた場合には90%の利用者増を、高額を投じた場合には110%の利用者増を期待できる計算になる。

ユーザテストを国内のみで終わらせずに海外にまで拡大して実施した場合を考えれば、成果にみられる20%の差分が妥当であることがわかる。複数の国でテストをすれば気づくことも多くなる。しかし、ほとんどの知見は共通してくるだろう。20%の追加のために、費用が3倍かかるとしたら、考えるまでもなく費用を抑える方をとることになるだろう。ところが、話はこれで終わりではない。

最後に、割引率を100%としてみよう。最初の1年間に回収される価値を現在の貨幣価値に換算すると半分になるということだ。つまり、今日の1ドルは来年の2ドルに相当するのである。デザインプロジェクトは極めて不確実性が高いので、割引率をここまで高く見積もることも理に適っている。

通常、次の3つの選択肢から選ぶことになる。

以上の仮説では、ユーザビリティ調査に高額を投じる方が正味現在価値(NPV)は7万ドルも高い。ならば、予算をたっぷり投じてユーザビリティ調査をすべきだろう。

ユーザビリティ調査の有無に関係なく、開発費用は一定として計算してきた。適切なユーザビリティ手法をとり、プロジェクトの早い段階でデザインの方向性を決めることで、実装後に見直しが必要になることはないと想定しているのだ。プロジェクトの後半にユーザテストを行う場合にはそうはいかない。テストで明らかになったフローの修正に追加費用がかかることになるだろう。その費用が、予算を抑えてユーザビリティ調査を行った場合は5万ドル、高額を投じた場合は6万ドルになるとしよう。後者の方が、修正を要する箇所を20%多く見つけ出すと考えられるからだ。この額を差し引いても結論は変わらない。高額を投じることのメリットが1万ドル減るだけのことである。

安く済ませる? それとも高額を投じる?

計算はどうも苦手という人のために、選択を迫られたときに従うべき5つの原則を紹介しよう。

  1. 期待値が高いプロジェクトほど、ユーザビリティへの投資が望まれる。利用者の増加(イントラネットの場合は利用時の効率向上)という形でプロジェクトの価値が高まることによって、ユーザビリティへの投資は回収される。プロジェクトの価値がそもそも低ければ、倍増したところで大した儲けにはならないだろう。
    • たとえば、期待値が5千ドル程度のプロジェクトなら、ユーザビリティへの投資はすべきではない。5千ドルの収益しか見込めないのに、1万ドルの投資を正当化はできないだろう。(ただし、小規模プロジェクトに使える格安のユーザビリティ手法もある。)
  2. 不確実性の高いプロジェクトは、割引率も高くなる。その場合には、ユーザビリティへの投資を安く抑えるのが常套だ。高額を投じれば、成功したときの儲けも確かに大きくなる。しかし、全損の確率も極めて高いため、高額投資は妥当ではない。
  3. プロジェクトの早い段階でユーザビリティ調査を実施できるならば、投資を増やすべきである。大した手戻りもなく、調査の結果を実装に移せるからだ。逆に、プロジェクトの後半で調査を行う場合は、投資を抑えよう。抜本的な変更はどうせ無理だろうから。
    • 注)プロジェクトの進捗と不確実性はどうしても拮抗する。プロジェクトの初期段階では不確実性は高く(故に、高額投資には向かない)、一方で成果を実装に移せる可能性が高い(故に、徹底した調査を実施する価値がある)。プロジェクトの後半、デザインに磨きがかかってきたところでユーザビリティ調査を実施できるよう予算を残しておくことも肝要なのだ。
  4. 期待される成果の差分が大きいならば、高額を投じる方をとるべきである。逆に差分が小さければ、安く抑えるべきだろう。定量調査が好例だ。定量調査は費用が嵩むので、大規模なプロジェクトでしか元を取ることができない。小規模プロジェクトでは、取り戻せる分があまりにも少ないからだ。外国で調査を実施する場合も同様で、海外の顧客数が少なければ、テストにかかる追加費用に見合う成果は得られないだろう。
  5. 最後に、高額を投じるにしても、その額が法外に高いとなればその選択肢をとるべきではない。先の例では、高額投資費用が11万ドルになると、安く抑えた場合と正味現在価値(NPV)が結局同じになる。ということは、高額投資が費用を抑えた場合よりも20%高い成果をもたらすとするなら、安く抑えた場合の費用の10倍を超えない限りは、高額投資が意味を成し、11倍を超えると追加費用を正当化するだけの収益は見込めなくなるということだ。

ユーザビリティ手法を選ぼうとするときには、たくさんの変数と様々なシナリオを検討することになる。安く抑えるか、高額を投じるかは状況に合わせて選択すれば良い。そうすれば、どちらを選んだとしても元を取れるはずだ。


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